底床物語
第2回
「吸うか、吹くか、暖めるか」

アクアリウムや水草を始めて少し経った頃の人に「底床吸い込みは・・?」とか「底床吹き上げは・・?」といった疑問を持たれる方が多いようです。
そのうえ、ちまたにはラインヒーターやグロースプレートなんかも有って、”一体何がどういう物なのか!”が分かり難いようです。

ということで底床物語の第2回目は底床に施す”何か”について説明します。

今回メインとして説明する物の他に底床に施す物としては次のような物があります。
簡単な説明と独断と偏見による評価も載せておきます。

肥料
底床に施す物の代表的な物です。
肥料についての説明は特にしません、技術集の「施肥の仕方」や奥義の「初めから苔を寄せ付けない」を参考にして下さい。
デニボール
少し前に話題になった硝酸塩を除去する”脱窒”を起こす物。
使い方は色々だが、その一つとして底床に埋め込むというやり方がある。
これ自体の働きとしては使用している水槽の硝酸塩濃度を測定し実際に効果が有った報告が多数上がっているので”脱窒”自体の効果は有りそうだ。
ただ、これを底床に埋めるのは底床を触媒のようにして脱窒を行うためであり、底床の状態をより良くするための物ではない。
脱窒の効果は有るもののこれによって底床の状態がどのように変化するのかは不明。
とりあえずこれを埋めた所には(デニボールそのものが底床内の障害物になるので)草は植えられない。
O2ストーン
水草の根は呼吸しますし、土壌バクテリアもその活動のために酸素が必要です。
O2ストーン(水草用)と言うのを底床に埋め込めばその化学反応で酸素が発生するという物。
理論的には正しいし、本当に酸素が少しずつ長期間にわたって発生するならばそれなりの効果があると思われる。
ただ、コスト的な問題や酸素が発生し終わったO2ストーンそのものを取り出さないといけない事を考えると(今回説明するような)別な方法で同じ目的を達成した方が良いと思う。

底床に関する3つの技法

さてここからが本題です。

底床に施す”何か”ですが、代表的な物を分類すると3つに大別出来ます。

です

尚、これらの技法は思いたったときにすぐ出来るとは言い難く、ほとんど水槽をセットする段階で仕込まなければならない上、間違った物を選択した場合それを変更するにも水槽の再セットが必要なぐらい大変で、そう簡単には変更できるものではありません。

始めに特徴などを良くとらえて何を選ぶか慎重に考える必要があります。

次にそれぞれの効能や特徴を説明します。

底床吸い込み

基本的にはこれは濾過のし方の一つだと考えて下さい。
別な言い方でこの方法を「底面フィルター」と言う場合も有るように上部フィルターやパワーフィルタと同様、濾過をする部分と濾材が水槽の底面(底床)に有ると言うことです。

水槽セット時に底床を入れる前に水槽の底にスノコのようなスリットのあるプレートをセットしその上に底床を入れる。
プレートの一部に付いた吸い込み口から水を吸い込めば水槽の水が底床の中を通ってプレートの下に吸い込まれプレートに付いた吸い込み口から出てくる。
これにより水槽の水が濾材となる底床の間をぐるぐると循環する。

吸い込むための動力としては何でもOKで、簡単な物では吸い込み口に付いたパイプの底部分にエアーを送り込み、パイプ部分を上に登ってくるエアーに押されて水が循環するというエアーリフト式から、水中モーター直結や上部フィルタの吸い込み口に接続したり、パワーフィルターの吸い込み口を接続したりする。

濾過の方式としてはコストパフォーマンスは最高の部類に入る。
ちょっとした設備でかなり多くの濾過面積を確保できることもあって、簡単に強大な安定した濾過が実現できる。
また水槽セット初期の立ち上がりも非常に早い。

アクアショップのように大量の水槽を設置する場合等この方法で濾過をまかなう事で設備を軽減している場合が多い。

淡水水槽の場合金銭的問題や設置場所の問題によってこの方式以外で濾過をまかなうことが出来ない場合に限り適用すべき方法だと思う。
もしそれらの問題が無いのであれば容量の大きな上部濾過装置や外部フィルターを使用したりそれらを追加して濾過を強化することで対応すべきです。

底床を濾材として使用するため、当然底床にヘドロのようなゴミが貯まる。
従って定期的に底床を念入りに掃除する必要があり、底床掃除に制限が多い水草水槽では維持が不可能に近い。

以下は後述の底床吹き上げにも当てはまる問題点。

成長した水草の根が底面プレートの隙間から中に入り込みからまる。

固形の底床肥料を使用することはほぼ不可能で、液体肥料一本で水槽水を栄養化する事で底床内の栄養分を与えるという維持の仕方が主流。
いずれにしてもこの場合の肥料の扱いと与え方はかなりのベテランでないと上手くいかない。

水は流れやすい所に集中する。
底床の中には水の流れやすい所と流れ難いところが自然と出来上がる、従って最終的には流れやすい所に水の流れが集中しそれ以外の所では流れが滞る。

底床吹き上げ

底床吸い込みと底床吹き上げは機構や動作が似ているのでどうも同じ様な物だと理解されている場合も多いようだが、目的や効果等は大きく異なる。

底床の中の水というのは何もしないと対流して水槽内の水と入れ替わるということは起きにくい。
水草水槽のように底床を厚くしている場合などは底床内の水はその場にとどまり、最悪の場合底床内の水が腐るという現象が発生する。

腐敗までは行かなくとも水が循環しないことで底床に酸素が供給されなかったり冬場に底床内の温度が低下するなど、土壌バクテリアや水草の根が活動するにはあまり好ましくない状態になりやすい。

その様な問題を解決するために底床内に水の流れを作り出すために強制的に底床内へ水を送り込むための機構が底床吹き上げである。

従って底床全体に必要とされる酸素分を含んだ水が流れ温度差が無くなる程度であれば良いのでそれほど多くの水量を底床に送り込む必要はない。
確か1平方メートルあたり数リットル/時間で循環すれば良く、あまり多くの水量を底床に送り込むと根の活動を阻害するような問題にも繋がる。

パワーフィルターからの水を分岐しその一部を底床側に送り込むことで水量を調整するがその底床側への送水量を微妙に調節するのはなかなか難しい。

テトラではその問題点を解決するための「オーバーフロー式底床吹き上げ装置」なる物を販売している。

構造は次の通り。

底面プレートの入り口付近に流量制限のための小さな穴のあいた部品が有る。
水槽の底面積によって穴の数を調節し底床内に流れ込む水量を決定する。
パワーフィルターからの水を分岐し一部を底床プレートに繋がったパイプへと送り込む。
送られた水は”高低差A”の分の圧力によって”流量制限スリット”の穴に流れる分は底床内に流れるが、それ以上の水はパイプの上部からあふれてそのまま水槽へと戻される。
この様にパイプの上部で必要以上の水をあふれさせて水槽に戻すことで一定の流量を保つように出来ており、オーバーフロー式という名前の由来でもある。


以下は前述の底床吸い込みにも当てはまる問題点。

成長した水草の根が底面プレートの隙間から中に入り込みからまる。

固形の底床肥料を使用することはなかなか難しい。
底床中を通る水量は底床吸い込みの場合に比べればはるかに少ないので、吸い込みの場合のように底床肥料を使用するのが不可能と言うほどではない。
ただし、底床に施肥したとしても水中に肥料分が溶け出すので水槽水が富栄養化しやすくなる。

水は流れやすい所に集中する。
底床の中には水の流れやすい所と流れ難いところが自然と出来上がる、従って最終的には流れやすい所に水の流れが集中しそれ以外の所では流れが滞る。

ここまで読めば分かるとおり、底床吸い込みは濾過のため、底床吹き上げは底床内を好条件に保ち水草などの育成を良くしようという物であり全く別な物である。

ラインヒーター

ヨーロッパで考え出された水槽設備。
昔はごく一部のマニアだけが使うような超高級な設備だったそうだが、現在は国産の商品も販売され、比較的値段もこなれてきたようだ。

別名コードヒーターとも呼ばれるように数メーターのコード状のヒーターである。
これをキスゴムのような物で水槽の底面にくねくねとはわせる。
なるべくまんべんなく暖められるようにコードとコードの間隔を狭くして水槽底面全体にはわせる。
それに通電することで底床の最深部が暖められ温度が上がった水が底床からしみ出し対流を起こして水が循環する。
同時に底床の温度低下も解消される。

通常ラインヒーターの通電コントロールは水槽水の加温用ヒーターの様にサーモスタットで制御するのではなく2分オン−8分オフなどの動作を24時間繰り返すサイクルタイマーによって制御することが多いようだ。

その理由としては全くサーモスタットがオンになることのない夏場でも通電して対流を起こさなければいけないからだと思う。
もちろん夏場に多く通電すると水温上昇を引き起こすので、なるべく水温が下がりそうな時間帯に1回か2回程度通電し少しだけ対流を起こせば良い程度に設定するのが良いだろう。
(明け方の4時と4時半にそれぞれ3分ずつ通電する等)

逆に冬場は水槽水の温度に比べて底床内の温度がかなり低くなるのでその分冷え込み防止のために通電時間を長くする。
(5分オン−10分オフを24時間繰り返すなど)

底床の温度を測定しながら季節毎に適正な通電時間を設定する必要がある。

冬場の底床と水槽水との温度差をなるべく少なくすることで底床付近に発生する苔や藍藻防止に効果があると言われることもあるが、私の知る限り関係なさそうである。

底床を暖めるという意味で水槽ラックの水槽を設置する部分の裏側に蛍光灯の安定器を設置するなどして安定器が発生する熱を有効利用しようという技法が、ダッチアクアリウムで行われていたりするが、寒冷地のヨーロッパならそれでも良いが夏がある日本ではあまり好ましい事だとは思えない。

夏場のことを考えると水槽に熱を与える物は出来る限り水槽から遠ざけ、非効率的ではあるが必要ならば専用の熱源を個別に用意しコントロールする方が好ましいと私は思う。

ラインヒーターは専用の物がアクアショップで入手できるが、寒冷地の水道管凍結防止のコードヒーターが流用できる。
ただし、完全防水で温度センサーやサーモスタットが組み込まれている物でなくそれなりの長さがある物となかなか条件が厳しいので、そういった装置に精通していないと事故を招く恐れもあるのでなるべくならアクア用として販売されている物を購入した方が良いでしょう。

このシステムの問題点としては水草が繁茂すると根がヒーターを巻き込み水草を抜いたときにヒーターもずるずると抜けて来るという事が起きる。
抜けてきた物は手で底床内に戻さなくてはいけないが、始めに綺麗にセットしたヒーターはだんだんめちゃくちゃになってくる。
予防法としては底面プレートのような板を設置して、その下にラインヒーターを設置したり、又はプレートの上に取れないように結びつけたりする。

同様の効果を狙った物でADAから販売されているグロースプレートと言う物もあります。
アルミかステンレスの素材で出来たプレートでそのプレートの下に通常のヒーターを仕込みその上に底床をセットします。
プレート自体は後方が高く前方が低くなっているので水草水槽のように底床に傾斜を付けるには丁度良い感じです。
プレートには網目やスノコ状のスリットは(確か?)無くセットされたヒーターに通電することでプレートの中の水が温められそれにより熱伝導を引き起こしプレート全体が暖まり底床全体が暖められると言う物。

穴やスリットがないので底面プレートのように水草の根が入り込むこともないし底床が全面的に暖められるので非常に好ましいが逆にプレートの下になった水は(穴やスリットが無い分)対流しないのでプレートの下の水が腐りはしないかと心配だが、両横に開いたヒーター設置用の穴から対流が起こっているのかそういった問題も無いようである。

グロースプレートの通電についてもサーモスタットを使った制御よりも、先のラインヒーターの制御と同様タイマーによる制御の方が良いとは思いますが、ラインヒーターの場合と違って通常のヒーターは発熱エネルギーが格段に大きいので、その分慎重に通電コントロールをした方が良いでしょう。
場合によってはグロースプレートの中にセンサーを設置したサーモをセットしてその設定温度を35度程度にしておき、そのサーモからの電源をサイクル機能のあるタイマーで通電コントロールする。
こうしておけば間違って通電時間を長くセットしてしまってもグロースプレートの中の温度が35度以上になれば自動的に電源が遮断されます。

最後に注意点ですが、ラインヒーターもグロースプレートも底床を補助的に暖めるための物です。
従って本来熱帯魚を飼育するための水温維持のためのヒーターは通常通り別途設置する必要があります。


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