肉じゃがの素(すき焼きのタレ)

最近は忙しく、Q&Aとアクアテロリストの広場をメンテナンスするだけで精一杯でコラムを書くのは久しぶりですが、また今回も妙なタイトルで始まりました。

最近テレビのコマーシャルで表題のような商品の宣伝を見かけました。

コマーシャルの内容としては、だいたい次のような感じです。

女「私の得意料理は肉じゃがなの」
男「お〜、肉じゃがが得意料理とは、なんて家庭的な女性なんだ!、さぞ料理も上手いだろう」
と、そんな場面があってその次には、その男女が結婚したという設定です。
そして結婚式で祝福される男女が映し出され、女性の手にはそのメーカーの販売している肉じゃがの素が有り、女性はしてやったりというような表情で微笑みながら「これ一本でお嫁に行けちゃう」と喜んでいるというような内容でした。

まあ、この内容だけをとってみてもとっても非常識な内容であり、肉じゃがが作れる→料理が得意→家庭的な女性→結婚相手に選ぶ、という連想などは女性の権利云々と活動しているような団体からは「女性差別だ」と抗議されそうな事にも思えるのですが、そういったこともないのか該当のコマーシャルはいまでもまれに見かけます。

もし、その設定が本当だったとしてもその男女は幸せになるかどうか疑問ですが、要するにそのコマーシャルは”この商品を使えば料理下手な人でも簡単に料理上手が作ったのと同じ肉じゃがが作れます”という事を言いたいのだと思います。

最近ではこのコマーシャルの商品のようなものをよく見かけますが、私は非常に疑問に思います。
表題の商品はその商品で、ジャガイモ・肉・人参・タマネギなどを煮ることによって肉じゃがが簡単にできるというものですが、それならばその商品を使わなくても醤油やみりん・酒などがあれば肉じゃがは作れます。

私が想像するにその商品は単なる合わせ調味料であって、醤油や酒・味醂・砂糖など基本的な調味料を肉じゃがとしてちょうど良い具合に調合されているだけではないかと思うのです。

自慢じゃないですが私だって肉じゃがぐらいは基本的な調味料だけを使って作ることができます。
もちろん自分で基本調味料を使いいろいろやったあげくに出せなかった味がその肉じゃがの素で出せるのであればあえて使う価値はありますが、コマーシャルの設定のようなケースでは、基本的な調味料を使って肉じゃがを作れない為にそれを使うという事ですし、実際に利用する人の多くもそういった理由からではないかと推測できます。

そう考えると、そんなもんを使わないと肉じゃがが作れないなんておかしな事だということに気が付きますよね?
肉じゃがの素を使わないと肉じゃがが作れないとすれば、その肉じゃがだって自分が味付けをした味ではなくメーカーが味付けをした味だし、ましてやその他の煮物なんてとうてい作れないでしょう。

料理は基本的な調味料を組み合わせて応用することで、いろいろなメニューが作れ、また自分の(またはその家庭の)味というものが作れるのだと思います。
肉じゃがの素を使わないと肉じゃがが作れないとすればとうてい応用などと言うことは不可能でしょう。

そんな商品が氾濫する現代の日本では、どんどん応用の利かない人間が増えているのではないかと心配にすらなってきます。

似たような部類の商品で私がすぐ思いつくのは、網戸専用の殺虫剤とかナメクジ専用の殺虫剤なんてものが有ります。
べつに網戸専用の殺虫剤などというものが無くてもふつうの殺虫剤でも事は足ります。
昔からナメクジを見つけたら塩をかけると決まっています。
もちろんそれらは専用であるが故の利点も有るでしょう。
網戸専用の殺虫剤は普通の殺虫剤に比べれば網戸の網に付着しやすく効果が長持ちするとか・・・
たぶんこれまでの文章をそれらの商品の開発元や販売元の人が見たら、きっとそう反論するでしょう。

でもそれなりの違いがあってそれなりの効果が有れば何でも専用にしてしまうのが本当に正しいことでしょうか?

たとえばゴキブリ用殺虫剤も(ゴキブリ用という時点ですでに専用ですが・・)ゴキブリの種類に対応して10種類も有ったとしたら、それをそれぞれ購入しそして対象となるゴキブリの種類によって使い分けることが正しい事なのか疑問ですよね?

以下例

娘「きゃ〜、お父さんゴキブリよ〜」
父「なにぃ〜、よ〜しこんな時のために全10種類、総額にして3,453円消費税込みで購入したゴキブリ種類別殺虫剤で息の根を止めてやる、さ〜おまえはなにゴキブリだ!」
母「あの触角の形と羽の色は、クロゴキブリよ!」
父「よ〜し、ではこのクロゴキブリ専用殺虫剤をお見舞いしてやる〜」
シュー・・・・・(しばし沈黙)
娘「あ〜、お父さん違っているわ〜、あれはチャバネゴキブリよ〜」
父「な・・なにぃ〜、違っていたかぁ・・・ではこちらのチャバネゴキブリ専用殺虫剤で」
    ・・・
    ・・・
   (以下略)

とか・・・

または食事の際に自分のお膳には
・ご飯用箸
・魚用箸
・おつけもの用箸
・冷や奴&豆腐のみそ汁用箸
  ・・・
  ・・・
  (以下略)
が有ったりしても疑問に思わずそれぞれの箸を持ち替えて食事をする時代が来たりするんでしょうか?

長々とアクアリウムに関係のない話ばかりを続けてきましたが、これまでに話してきたような内容を頭の片隅に置きながら、アクアリウムの世界の商品達を見てみると・・・
まあ、同じようなことが当てはまる商品がわんさか有りますよね。

肥料にしろ器具にしろなににしろ、アクアリウム以外で元になる何かの商品があり、それを少しアレンジして(場合によってはそのまま、包装だけを変えて)アクアリウム専用となっている商品群が沢山有ります。

たとえば某社が販売している自社のアクアリウム器具を洗浄するための専用の洗剤が有りますが、アクアリウムの経験と知識がある人なら、そんなもの使わなくとも漂白剤などの家庭用洗剤で十分であることは半ば常識化していますが、アクアリウムのビギナーはそれを使わなければいけないし、そうでなければ機材に付いた苔が落とせないと思いこんでいる人も少なくないようです。
もちろんそのメーカーの機材の取り扱い説明書には「苔が付いた場合などは家庭用漂白剤に浸すなどして洗浄して下さい」と書いてあるわけではなく、当然「苔が付いた場合などは別売の専用洗剤で洗浄して下さい」と書いてあるために起きているという事は言うまでも有りません。

某社に言わせれば「その専用洗浄剤は家庭用の漂白剤に比べれば苔を落とすために有効な成分が多かったり、お皿やコップなどを綺麗に見せるためのアクアリウムとしては不要な成分を排除するなど、専用であるが故の利点や効果が有る、だからいかがわしい商品ではないしそれを使った方が苔はよく落ちるのでそれを勧めている。」
となるのでしょうが、もしそういうことを言うメーカーの人間が目の前にいたら「あなたは夕食の時豆腐のみそ汁が出てきたらみそ汁専用の箸に持ち替えて、そのみそ汁を食べるのでしょうか?」と聞いてみたいです。
もちろんみそ汁専用の箸は箸先の面積が広くなっており圧力によって豆腐が崩れるのを防止し、特殊加工された表面の突起が豆腐を無理なく持ち上げることができるようになった、れっきとした専用箸で有ることも付け加えて説明する必要があるでしょう。

というわけで専用商品は実は利用者に本来必要でない(別なもので代用できる)ものを買わせて無駄な金を使わせる事を目的に開発されている場合も少なくないように思います。
そういうった商品の場合、販売側がいくら「それなりに違いが有って専用なりの効果がある」という説明をしても、それを指摘された事への言い訳としか思えません。

またアクアリウムをやっている先輩達の中には「アクアリウム用でないものを使い、アクアリウム用に応用して対応するなんて面倒だ、アクアショップに行けばアクアリウム専用の物が売られているのでそれを買ってきて使った方が簡単で便利だ」という人も多いようですが、そんな方は自分の奥さんに「肉じゃがを作るのに砂糖や醤油を調合して作るなんて面倒だ、肉じゃがの素を使いなさい」と言うんでしょうか?
奥さんにそんな指導をしているような家庭には、私なら夕食に誘われても行きたくはないです。

アクアリウムをやっている先輩は色々な応用技を修得した上で楽をするためにアクアリウム専用の物を使っているのかもしれませんが、右も左も分からないビギナーにアクアリウム専用を勧めることで、その人が応用の利かないアクアリストに成っても良いと思っているのでしょうか?

こんな事では日本の将来も、そしてアクアリスト達の将来も、応用の利かない人間であふれ返り、いつかはどうしようもなくなってしまうのではないかと心配に思います。

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